真夜中の恋人

誰もが知っているような有名店に行くのだろうと思っていたけれど。
着いたのは、JR駅のガード下に店を構えるこじんまりとしたお鮨屋さんだった。

老夫婦二人で切り盛りしているこの店は、常連客で溢れかえっていた。
陽気な女将さんに、丁度空いたというカウンター席に案内されて腰を下ろす。

「いつも、ここに来るの?」

「いや、かなり久しぶりだな」

「そう……」

わたしと一緒だから、気を遣って庶民的なお店を選んだのかな。
そう思うと、嬉しいような寂しいような複雑な気持ちになる。

「ナツ?なんだか、元気ないね?」

「ううん。そんなことない」

最初で最後のデートだもの。出来るだけ楽しく過ごしたいのに、どうしてくだらないことを気にしてしまうのだろう。

「ナツは茶碗蒸しは好き?」

「大好き」

「じゃ、茶碗蒸し二つと、あとは適当に握って。それから……」

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