エリート医師に結婚しろと迫られてます
その人が、部屋の中に入って来るだけで、
ガラッと空気が変わる事がある。
彼の場合もそうだと思う。
その人は、兄の顔を認めると、
本当に、中に入ってきた。
美月が「どうも…」と形だけの挨拶をする。
そして、彼を見て、あり得ないって顔で固まってる。
反対に彼にどうも、と微笑まれて、普段の態度では見せたこと無い、歯切れの悪い態度で彼に会釈した。
私は、一瞬バッチのことを忘れて、彼のことを見た。
美月が固まるのも無理はない。
びっくりするほどの男前だもの。
こういう男性を目の前にしたとき、私はきれいな花を前にしたみたいに素直に格好いいなと思って眺めることにしている。
その方がへんな期待をしなくてすむし、へんな期待で緊張した分、料理の味も酒の味もわからなくなるのは、バカげてると思う。
兄も、キジやサルみたいな適当な相手が捕まらなくて、こんなハイスペックな人間しか残ってないのかな?なんて彼の顔を見て思ってた。
兄の横の席が空いてたので、前を、失礼しますっていう感じで部屋の奥まで入ってきた。
彼はすっと私の目の前に立つと、着ていた薄手のコートを脱ぎ、薄手のニットとピッタリしたズボン姿になった。
顔だけでなく、動きもスムーズで姿勢がよく、一目でお育ちも良さそうだと思った。
美月と場所変わろうか?
と目配せをしても、
兄は、後輩といきなり仕事談義を始めて、
自分が言い出したことを忘れてる。
美月は、美月で兄の話に割って入ろうと、
会話が途切る機会をうかがってる。
私は、仕方なく「席、変ろうか?」
って腕をつついて美月に聞いた。
「何でよ」と即答が返ってきた。
彼は、入って来て早々に、お酒が入ってる
兄のジョークを軽く受け流し、
兄のあらゆる指図を軽く冗談にし、
笑って見せるなんて、神業をこなしてる。
見た目もスラッとして、物腰の柔らかい、
落ち着いた雰囲気を持っている。
「麻結子、彼が、森谷裕貴君、
うちの大学の附属病院で、
内科医をしている」