エリート医師に結婚しろと迫られてます



「美月さん?」と森谷さんが呼びかけて来た。

私は、ちらっと美月の方を見る。

彼女は、呼び掛けを無視して兄と話してる。


お酒が入って、多少気も緩んでいた。
森谷さんが、私に向かって「美月さん」と呼びかけてくる理由をすっかり忘れていた。。

「美月さんって、名字?それとも名前?」

甘い声…うっとりするような。
あんな声を耳元でささやかれたら、ひとたまりもないわ。

なんて思っていた。

「美月さん?」

「はい?」誰?

じゃないか、美月は私だ。私だった。


目の前の彼に話しかけられてるのは、自分だったと気づいて慌て答える。

「名字は…野崎…」と、言いかけて美月に肘鉄をくらった。

痛っ……

「先生、いい加減に覚えてくださいって。
よく間違えるけど、美月は名前。名字は、野島だから」
と本物の美月に突っ込みを入れられた。

森谷さんが、下を向いて、こらえきれず肩を震わせて笑ってる。

がははは、なんて大声で笑わずに上品に笑ってるけど。
意外と笑い上戸らしい。


ようやく落ち着いた、森谷さんが質問してきた。


「お酒強そうですね?」

「いえ。そんなことないです」

と遠慮がちにいったけど、兄に勝てるのはお酒の強さだけだ。


彼は、私の返事など忘れてしまったよう。
涼しげな顔で、グラスを冷たそうな薄い唇につけて、遠慮がちに飲んでいる。


< 41 / 336 >

この作品をシェア

pagetop