エリート医師に結婚しろと迫られてます
「美月さん?」と森谷さんが呼びかけて来た。
私は、ちらっと美月の方を見る。
彼女は、呼び掛けを無視して兄と話してる。
お酒が入って、多少気も緩んでいた。
森谷さんが、私に向かって「美月さん」と呼びかけてくる理由をすっかり忘れていた。。
「美月さんって、名字?それとも名前?」
甘い声…うっとりするような。
あんな声を耳元でささやかれたら、ひとたまりもないわ。
なんて思っていた。
「美月さん?」
「はい?」誰?
じゃないか、美月は私だ。私だった。
目の前の彼に話しかけられてるのは、自分だったと気づいて慌て答える。
「名字は…野崎…」と、言いかけて美月に肘鉄をくらった。
痛っ……
「先生、いい加減に覚えてくださいって。
よく間違えるけど、美月は名前。名字は、野島だから」
と本物の美月に突っ込みを入れられた。
森谷さんが、下を向いて、こらえきれず肩を震わせて笑ってる。
がははは、なんて大声で笑わずに上品に笑ってるけど。
意外と笑い上戸らしい。
ようやく落ち着いた、森谷さんが質問してきた。
「お酒強そうですね?」
「いえ。そんなことないです」
と遠慮がちにいったけど、兄に勝てるのはお酒の強さだけだ。
彼は、私の返事など忘れてしまったよう。
涼しげな顔で、グラスを冷たそうな薄い唇につけて、遠慮がちに飲んでいる。