エリート医師に結婚しろと迫られてます

私たちは、八幡様と正反対に海に向かって歩いていた。

「いいところですね。あまり変わってない」


「デートで何度も来たんでしょう?」


「そういうこともあったかな」


海に近づくにつれて、
かすかに感じる潮風が心地よい。


「君は?近所の子と一緒に歩くにはいい場所だね」


「はい、まあ。それなりに…」


ここは、余計なことなんか言わないで、思い出に浸ろう。

私も、森谷さんと同じ意見だ。



鎌倉のいい所は、八幡さまの裏手にいると、
山に住んでいる感覚でいるが、
少しがんばって歩くと、
由比ヶ浜の海が見られる所だ。




海に近づいて
視界が開けて空が大きく見える。


「ほら、海が見えてきた」

森谷さんが、さっと腕を伸ばして来て、
私の腕に絡めた。
そして、耳元でささやく。

「麻結子はここで生まれたの?」
時々、怖いくらい爽やかな笑顔を、
森谷さんが向けて来る。

耳元でささやかれる甘い声と相まってどうにも落ち着かない。



「ええ…そうです」



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