【短編】君が手を伸ばす先に
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「花乃」

声をかけてみるが、返事はない。

返事どころか僕の存在に気づいているかどうかさえ怪しいものだ。

仮にも愛し合った仲だろう、とおよそクサイことを言ってしまいたくなる。


何を間違えていたのか。

どこで間違えたのだろう。

考えても栓無いことだ。

花乃から答えを聞き出すのはまずできない。

花乃は問題集でも、ましてやその解答でもないのだから。


はぁ、と溜め息ばかり出る。

花乃。

君は、誰かを無視するようになったのか?

そんなことはないはずだ。花乃はそんなことできない。

なら、どうして?

分からない。

花乃はあんなに誰かを傷つけることに怯えていたじゃないか。


何が花乃を変えた?

分からない。


一番嫌なのは、花乃の笑顔が消えたことだ。

笑みを浮かべてはいても、僕の好きな笑顔ではない。

どこか悲しそうで、切なそうで。

苦しげに空に手を伸ばすことさえある。


きっと今の僕じゃ笑顔にできないんだろう。

そんな大きな問題なのか。

花乃。どうしたんだ。


花乃の傍に、見覚えのある女の子が寄って来た。

「花乃ー。元気出しなよ、いい加減」

「葉瑠…うん、でも」

そうだ、葉瑠ちゃんだ。

花乃の友達で、いわゆる姉御気質の。
頼りがいもあるし信頼も置ける子だ。

花乃とは対照的な黒目黒髪で、甘い顔立ちの花乃とは違う涼しげな印象の美人。

「気持ちは分かるけどさ、そんなんじゃ祈くんだって悲しむよ?」

突然出てきた自分の名前にぎょっとする。

僕が悲しむ?

「そうかな…」

「そうだよ。いつまでも抱え込んで避けてたら、祈くん心配で禿げちゃうよ」

これには苦笑ものだが、本当にそうだ。

悩みがあるなら話して欲しい。

「禿げるって」

「本当に。花乃は笑顔が似合うんだから」

「そういえば、祈も笑顔が好きだ、笑顔でいてって言ってくれてたな…」

「うわ、いきなりノロケ?」

やだやだ、と葉瑠ちゃんが手をヒラヒラ振る。

「よしっ、今日けじめつける。それから祈に会って、安心させてあげなきゃ。ずっと話してないし」

「ん、頑張れよ」

親指をピンと立てた葉瑠ちゃんに、花乃は力強く頷いた。

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