伝えたい。あなたに。
コンコンッ



やっとの思いで座った時、さっきと同じようなノックが聞こえてきた。



山瀬先生以外に通用する得意の平然を装う。




山瀬先生が来ることを期待したが、そこにいたのは見たこともない、白衣姿の男性だった。



山瀬先生達より少し年上だろうか。




『何で床に座ってるの?』



冷たく言い放つ。



『バランスを崩してしまって、戻ります。』



できるだけの笑顔で返す。



『広瀬先生から治療を嫌がって、今日はできなくなったって聞いたよ。山瀬先生も所用で院外にいるから、今晩は僕が見るからね。』




『そうですか。ご迷惑おかけしました。』



『じゃあ軽く診察させて。』



手首で脈をとる。



とんでもなく冷たいのだろうが、気にしていない様子で。



『うん。大丈夫だね。』



『ありがとうございました。』



何も気付かれない方が都合がいい。











『ちゃんとベッドにいなきゃだめだよ。』





やっぱりバレてたか。




しかしそれ以上何も追及してこなかった。



これが医師の本来の姿とも見える。



いちいち気にしないのが。
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