HE IS A PET.
怜は考え尽くしたというけれど、悠里は死んでしまうかもしれなくて、だからその前に怜を手離したのかもしれない。なんていう『もしかしたら』は考えもしなかっただろう。
そんな陳腐な映画みたいな話が真実だなんて、誰も思いやしない。
実は嘘なんじゃないかと私も思いたい。
「ごめん……」
何に対する謝罪なのかと訝る私に、容赦のない言葉が告げられた。
「俺、アズミといたい……嫌われても。ごめん、咲希さんのこと……好きになって」
「何で謝るの、身代わりにしたから? 私はアズミンの身代わりで、アズミンは、ゆう……チトセの身代わりだから?」
うっかり悠里と口走りそうになって、チトセと言い換えた。
あたしの脳内では、「チトセ」と言えば兄の方の顔が浮かんでしまうから、具合が悪い。
薄茶色の瞳が見開かれた。
じわりと浮かぶ涙を留めさせるための瞬きをしながら、怜が口を開きかけたとき
「ちょっと咲希ぃ。あんまし苛めないでやってよねえー。うちの可愛い怜たん」
怜の背後から、すっと回された腕が絡みついた。
ぎゅうと拘束された怜は、苦しそうな顔をアズミンに振り向けた。
「怜は、何も考えなくていいのよ~」
「……アズミ、お酒臭……んっ」
遠慮がちなペットの抗議を、飼い主は強引に塞いだ。
「難しい話は止めて、仲良くしましょうよ」
怜を抱きしめたまま、柔和な笑みを見せ
「3Pする?」
私に尋ねる酔っ払いを睨みつけた。
「教えてあげるわよー、子作りの仕方」
そんな挑発を、玄関のドアを閉める直前に背中で聞いた。