HE IS A PET.


「悪用って……?」

「あんたの会社に送り付けるとか? 『あんたんとこの会計士が、暴力団幹部と交際してる。資金繰りにも関与してる可能性がある』って、善意の匿名でな。あんたの会社、去年不祥事あったよあ。上手く逃げたみてえだけど、立て続けの不祥事ってのはキツいよなあ」

「そこまでして、関わるなって……そんなに私が邪魔になるの?」

 金品を要求される訳でもなく、チトセの要求は『怜のことを忘れろ、関わるな』だ。

 それが出来るなら、とっくにそうしてる。


「そうだな。あんた仕事柄、弁護士や有力者にツテがあんだろ。政界に顔がきく上司もいりゃ、身内にサツもいる。事を大袈裟にはしたくねえ」

 身内に警察というと、従兄弟のことか。従兄弟は交番勤務の巡査だ。
 
「口止め?」

「ああ。出しゃばらなきゃいいだけだ。そう難しいことじゃねえだろ」

 たしなめるように言って、チトセはスマホをポケットに仕舞った。

「そんな名残惜しそうな顔すんなよ」

「してない」

 恨めしい顔をしただけだ。

 チトセはふいと逸らした視線を、テレビ脇にある監視カメラのモニターに向けた。

「安住が来た。出迎える」

 チトセの後を追って、応接室を出た。


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