HE IS A PET.
Morning



「咲希」

 事務所に入って来るなり、アズミンは真っ直ぐ私を見て両手を広げた。

 あっと思ったときにはもう、ジャスミンヴェールの香りに包まれていた。


「怖かったでしょー、もう大丈夫よぉ」

 抱き締められて、頭を撫でられる。

「ごめん、アズミン」

 愚かな子供になったような、情けない気持ちでその手に甘えた。

 いつも完璧メイクのアズミンだけど、いつになく疲れきった顔をしてる。
 多分寝てないんだろう。怜を捜してて。


「なあ、感動の抱擁は挨拶のあとにしてくんねえかな、社長さん。大事な商談相手だろ」

 チトセの挑発的な言葉を受け、アズミンは私から離れて、すっと前に歩み出た。

「あらぁ、失礼。いつもなら真っ先にいい男に目が行くんだけどぉ。顔が良くても性格が悪いから、視界に入んなかったのかしらあ」
 
 うわお、チョー喧嘩腰。こんなんで商談まとまりますか?

「言ってろ、カマ野郎」

 アズミンはんふふと笑った。

< 285 / 413 >

この作品をシェア

pagetop