HE IS A PET.


「待って!」

 慌てて飛び出て、素っ裸。
 背を向けかけた怜が、顔を振り向けて目を丸くする。

「ほんとに大丈夫? 無事に帰ってくる?」

 たった二万円で、二ヶ月も歩き続けようなんて、やっぱりどう考えても無謀すぎる。

 知らない土地で知り合いもいない。
 都会育ちで、誰彼に守られて生きてきた怜だから、

「甘く考えてたら、大変だよ。お願いだから、お金持って行って」

 無理矢理にでも持たせたいけれど、財布も何もかもクローゼットの中だ。
 取り出せないもどかしさに焦れる。

「大丈夫じゃなくても、絶対に帰るから。咲希さんが思うよりは、きっと大丈夫だよ」

 やっぱり頑固で考えの甘い怜を、途方に暮れて見つめた。何もできなくて情けない。

 何も着てないってのも惨めだ。
 怜の穴だらけの耳たぶに、ふと目が留まった。

 あ、そうだ。
 唯一身に着けている物に心当たる。

「……え?」

 ピアスを外して差し出せば、怜がきょとんとした。

「これ、御守りにして」

 ブリリアントカット・ダイヤモンドに、プラチナのラウンド枠。
 ティファニーのシンプルなダイヤピアスは、チトセとのランチのために『召かしこんだ』ものだ。

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