HE IS A PET.


 冗談は通じたのか通じなかったのか、怜は頷き、神妙な顔のままリビングの片隅へ移動した。

 貴重品入れにしているDパックリュックの中からスマホを取り出すのを見て、私は少し居心地が悪くなる。


 怜のスマホは、いつも電源が切れている状態で、リュックの中に入っている。

 そうしておかないと、アズミンからの連絡を期待して、不毛に待ってしまうからだろう。
 痛々しくて、怜らしい『可能性をゼロにする方法』だ。


 怜が携帯電話を耳に当てたのを見て、私はさりげなくリビングから隣の寝室に移動した。
 着替え一式を持って、お風呂に行くことにした。

 会話を聞かれていると思うと、気兼ねなく話せないだろうし、私も聞きたくないし。


 スマホを耳にあて、はにかんだ相づちを繰り返している怜と目が合い、

『お風呂入ってくるね』

 とアイコンタクトで伝えた。


 そっとリビングを出て脱衣所に入り、ランドリーバスケットに着替え一式を置いた時に気付いた。
 下着が足りない。

 取りに戻ることにして、再びリビングに引き返したけれど、その扉を開けることを寸前で躊躇した。
 私の名前が聞こえて来たからだ。


「咲希さんがいるから……」

 なに?
 私がいると、都合の悪い話?





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