HE IS A PET.
Tart



「倉橋、預かってるペットは? もう友達んとこ帰ったのか?」


 クライアントに提出する節税対策書類を作成していると、怒涛のような仕事をこなしていた長尾さんが、ふと手を休めて私に尋ねた。


「え、ああ。まだいますよ。あと三日」


「淋しがってねえか? 悪りぃな」


 昨日帰宅したのは、今日の午前一時。怜は寝ていた。


「長尾さんが謝ることないじゃないですか。仕事ですもん」


 人遣いが荒いけれど上手い長尾さんは、私の扱い方を心得ている。


「んじゃ、色々落ち着いて、倉橋が晴れて独り身に戻ったら、焼き肉連れてってやる」


「約束ですよ」


「おお。行けるようになったら催促しろよ」


「えー倉橋さんだけ、いいなあ~。あたしも連れてって下さぁい」


 コピー資料を渡しにきた事務の亜美ちゃんが、可愛らしく唇を尖らせた。

 去年お得意様の縁故で入社してきた、二十歳の綺麗どころちゃん。若くてちっちゃくて、お人形みたいな顔立ちで、毎日リカちゃん人形みたいに色んな服を着てくる。
 何から何まで可愛くて、感心する。


 土俵が違いすぎて、張り合う気持ちなんて皆無の私に対し、一人勝ちの土俵の上で、彼女はいつも不満そうにしている。

 まあ、長尾さんのせいだけど。


「だったら、給料以上に働け。ほい、この名刺全部ホルダーに仕分けしといて」

 受け取ったコピーと引き換えに名刺の束を二つ渡して、長尾さんは素っ気なく亜美ちゃんに言った。



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