HE IS A PET.


 わ、私だってそうだ。

 だけど、ここでサカる訳にはいかないじゃん?

「また連絡する」

「うん……おやすみのキス、していい?」

 首を傾ける怜の、繊細な睫毛に見とれながら、目を閉じた。

『おやすみのキス』という単語に、ちりりと胸が痛む。
 ペットだった怜は、まるで習慣のようにそれをせがむけれど。 

 それは本来、飼い主の役割だった。

 ふわりと唇を覆う柔かい感触に、甘苦い気持ちが広がる。

 そんな切なさも愛しさもブチ壊したのは、

「うわあー」

 突然上がった、叫び声だった。


「チューしてる!」

 開いたドアの隙間から覗く、真ん丸い目。

「まこっ…」

 怜の呼び止めは間に合わず、くるりと背を向けた真くんは、ドタドタと階段を下りて行ってしまった。

 終わった……いや、むしろ始まりでしょうか。


「今の『チューしてる!』、下まで聞こえたかな?」

「うん、多分」

 怜は案外呑気に笑って、私の手を引いた。

「大丈夫。行こう、送る」


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