HE IS A PET.
「何時かな」
「え?」
時計を見る。午後九時十七分。
「もう遅いから、そろそろおいとまするね。あ、ケーキ」
食べかけケーキの残りを口に放り込み、アイスコーヒーを飲み干し、手を合わせた。
「美味しかった。ご馳走さまでした。怜は下で食べる? トレー、下げとこうか?」
「え、咲希さん。今日、何か用事あるんだった?」
「ないよ」
「じゃあ、そんなに慌てて帰らなくても……」
「駄目だよ。平日の夜に、こんな時間まで非常識じゃん。また電話する」
にべもなく答えると、怜はしょんぼりとして
「ん、分かった。無理言って、ごめん」
と言って、ティファニーの紙袋を手に取った。
「御守りにくれた咲希さんのピアス、やっぱり返せない。ずっと御守りにしたいから。ワガママ言ってごめんだけど、これと交換じゃ駄目?」
う、可愛い。
思わず押し倒したくなる衝動を堪えて、抱き締めるだけに留めた。
「……怜、大好き。可愛い、いい子ね」
「いい子じゃないよ」
怜が、少しだけ不満げに言う。
「ほんとは、まだ帰したくない。咲希さんが困ることしたいって、思ってる」