HE IS A PET.
覚悟して来たつもりだったのに、私は畏れていた。死を直前に迎えたおじーちゃんと対面する、この瞬間を。
どんな顔をしていいのかなんて分からない。
私に向けられたおじーちゃんの目は、息を呑むほどに穏やかだった。
肉が落ちて、顔は骸骨みたいだけれど、澄んだ瞳に畏れはなかった。死を受け入れる覚悟をした人間の顔だ。
おじーちゃんとの出会いは、二年前。
入社したての新人だった私が、初めて受け持たせてもらったお客さんがおじーちゃんだった。
資産管理相談とは名ばかりで、実際は『隠居老人の退屈しのぎの話し相手』だった。
実績もないくせにプライドが高かった私は、自分の仕事を否定されたように感じてしまったけれど、おじーちゃんは私という人間自体を認めてくれて、好いてくれた。
月イチのお茶会は、私の憩いだった。
「倉橋さんもね、病院経営の今後をとても心配して下さってるの。だからこうして来て下さったのよ、お義父さん」
「父さん名義の預金や株式の譲渡手続きをね、して欲しいんだ。後で整理するとなると、俺たちも色々と大変だろ。相続になると、税金も違ってくるし」
「まさか、あの子に遺産分けなんて遺言、遺してないわよね? お義父さん」
「何とか言ってくれよ、父さん」
息子の平林先生が、私にチラリと視線をよこした。
「倉橋さんからも、何とか言ってもらえないかな」