HE IS A PET.
私の『全速力』は遅かった。
病院内で見舞い客とぶつかったり、店の場所を知らなくて携帯で調べたり、道が渋滞してたりして、『ふうか堂』に着いたのが四十分後。
さらに最悪なことに、いちじくタルトは売り切れだった。
仕方なく代わりに薦められた洋梨タルトを買って病院に戻ったのは、約二時間後。
おじーちゃんの病室のドアには、『面会謝絶』の札が掛かっていた。
私は、約束を果たせなかった。
お通夜の案内が来たのは、翌日の午前十時だった。
本来は休みの土曜日だけれど仕事が追っつかずに出勤していて、訃報を受けた。
一昨日まで残業続きだった私が、昨日今日と早く帰宅したことに、怜は喜ばなかった。
心配そうな顔をして、私に尋ねた。
「何かあった? 咲希さん」
どうして分かるんだろう。普段通り、振る舞ってるはずなのに。
怜はこういうところだけ鋭い。
「訃報があって、今日お通夜行くから。明日はお葬式」
怜がうちにいるのは、明日の朝までだ。
だから今日の夜は、お別れ会的な意味合いで、一緒にレストランへ行く約束をしている。