HE IS A PET.
「あのっ……失礼ですが」
駐車場からお通夜の会場へと歩いて向かう途中、同じく焼香客と思われる男性に呼び止められた。
上司が足を止め、私も足を止める。
「昨日病院で、お会いしましたよね?」
えっ…私?
そう言われて見ると、見覚えがある顔だった。
「ああっ、はい。その節はどうもすみませんでした」
ぶつかった人だ。昨日、病院で。いちじくタルトを買いに行こうとしてて。
「タルト、ありがとうございました」
思いがけないお礼を言われ、目を丸くした。
「……洋梨タルトですか?」
「買って来てくれましたよね? ドアノブに掛かっていたのを僕が見つけて、祖父に渡しました」
ってことは、この人おじーちゃんのお孫さん?
「おじー……お祖父様は、あのタルトを受け取られたんですか?」
「はい、喜んで……食べることは出来なかったですけど、包みを見て、幸せそうな顔をして……」
そこまで言って声を詰まらせたお孫さんに、何とも言えない気持ちに包まれる。
面会謝絶の札を目にした時には、間に合わなかったと思った。
置いて帰ったタルトがおじーちゃんの手に渡り、喜んで貰えたと知って、嬉しいけれど、やっぱり申し訳なくも思う。
だってあれ、おじーちゃんが食べたがってた『いちじくタルト』じゃなかったし。
「……平林先生も、さぞお幸せでしたでしょう。お祖父様想いの、優しいお孫さんに看取られて」
辛気臭い沈黙を打破したのは上司だった。
空気を読んだ広瀬さんは遺族の彼を労る言葉をかけると、
「先に受付をしてくる」
と、分かりやすく気を利かせて行ってしまった。