HE IS A PET.
「毎日は会えなくていいですけど、あまりに会えないと自然消滅しそうな気はしますね。織姫と彦星みたいに一年に一日しか会えないとかは、無理ですね。付き合ってる意味、分かんなくなりそう」
子供の頃に聞いた七夕のおとぎ話。
ロマンティックというよりは、熟年の別居夫婦みたいに思えてしまう。
「月に三日は」
守田さんが言った。
「え?」
「こっちに来るつもりだから。また会ってもらえるかな」
「で、何て答えたの?」
「ハイ以外、答えようがなくないですか?」
「確かに、そこで嫌とは言えないわよねえ。でも、別に嫌じゃないんでしょう?」
淡々と登記申請書を作成する田中さんの手際の良さに感心しながら、唸った。
「うーん。嫌いじゃないですけど……」
「けど?」
「わざわざ神戸から会いに来てくれるってなると、なんか気が重いっていうか……。いい人なんですよ。気さくで話しやすくて、感じ良くて。話も面白くて、真面目で」
「でも、だから好きになるってのとは違うわけよねえ。恋の始まりには、ときめきが最重要条件だものねえ」
さすがバツイチの貫禄で田中さんがしみじみ言うと
「倉橋が、ときめくことなんてあるのか? 想像出来ねー」
長尾さんが失礼な絡み方をしてきた。
「想像してもらわなく結構です。長尾さんこそ、恋愛してる姿なんて全然想像つかないんですけど」
「想像すんな。セクハラで訴えるぞ」
傲慢な顔をして、長尾さんが言った。
「俺と付き合うか? 俺の恋愛してる姿、見たかったら。めちゃんこ可愛いぞ」
「それ、絶対あり得ないです」