HE IS A PET.
週末の終電は混んでいた。
普段は社用車で通勤しているため、たまに電車に乗って帰ると、それとなく人間観察してしまう。
サラリーマンやOLさんはみなお疲れ顔で、自由そうに見える若い子たちは、みな退屈そうだった。
だからだろうか。淋しそうな迷い犬が目に留まったのは。
「……怜?」
地元駅を降りると、改札を抜けた先の自販機横のベンチにポツンと座っていた。
近づいて声をかけると、怜は顔を上げて、瞳を見開いた。
「咲希……さん」
まるで幽霊にでも逢ったかのような反応に、現実感を得る。幻覚かもしれないと思ったのは、こっちだ。
「何してんの? こんなとこで」
怜は質問に答える代わりに、手にしていたスマホをきゅっと握り締めた。
今日の怜の服装は、アメリカンカジュアルだ。
『92』という数字が大きくプリントされたアバクロの定番ジップパーカーと、ヴィンテージジーンズ。
どんな雰囲気の服でも着こなしてしまう。逆に言うと、身に纏うイメージに左右されてしまうほど怜自身の雰囲気は儚い。
「電話してって、言ったでしょ」
「来てから、気づいた。やっぱ、迷惑だって。でも会いたくて……ごめんなさい」
切れ切れに謝罪を紡ぐ怜に、たまらない気持ちになって手を差し出した。
「迷惑なら、電話してなんて言ってない。こんなとこにずっと居られて、また風邪引かれる方がよっぽど迷惑。ほら、立って。行くよ」