鬼系上司は甘えたがり。
 
だから、今回もそうなるのではないかと冷や汗が止まらず、怯えきった返事になってしまう。

全ては空気が読めないタヌキ部長のせいだ。

今の鬼は甘くないんだよ、ただの鬼なんだよ。

キュッときつく瞼を閉じる。

今日は何を要求されるのやら……。


「3分でいい、ちょっと抱きつかせてくれ」

「……へ」


けれど、昨日の横暴な甘え方から一変して今日の主任は明らかに弱々しく、背中から抱きつかれた私は、思わず気の抜けた声を出す。

今日は下ろしている肩甲骨辺りまで伸ばした髪の毛をそっと左に払った主任は、露わになった私の右の首筋に、妙に艶めかしい色気を含んだ「……疲れた」という呟きとともに顔を埋める。

ああ、相当参っているんだな、主任。

部長からのお願いだ、無碍にもできないし、適当に決めるわけにもいかず、あまり何日も待たせるというのも、部長の機嫌を損ねる。

でも主任はかなりキチキチで仕事のスケジュールを組んでいるから、部長のどうでもいいお願いに時間を割いている余裕なんて正直ない。


私の胸の上辺りでぎっちりホールドしている主任の腕に、そっと触れてみる。
 
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