鬼系上司は甘えたがり。
最初のうちは元気になってきたからはしゃいでいるんだな、私が部屋にいて主婦業をしているのが嬉しいんだなと、ほのぼのとした気分で相手をしていたのだけれど、さすがに何度も呼びつけられて長時間拘束されてしまうと、だんだんムカムカしてくるのは否めない。
なんなのコレ、もう普通に元気じゃないかっ!
「そんなに元気なら、私帰りますっ!」
こんな猛獣、たかが一般人の手に負えるか!
そう思い、ベッドに呼びつけられ、あれよあれよという間によからぬことを始めようと覆い被さってきた主任の胸板を押して抵抗する。
……病み上がりの体でなんてことをしようとしているのだ、この鬼は。油断も隙もありゃしない。
けれど。
「ダメだ、まだ礼が済んでない」
「お、お礼……?」
「喰ってやる」
「ひぃっ!」
すっかり主導権を取り戻した主任に抵抗するだけ無駄だというもので、その晩、私は、一週間分の看病のお礼として一晩かけて体にたっぷりと主任からの寵愛を施されたのだった。
……うう、とんだインフル詐欺だ。
それでも幸いだったのは、編集部の面々にも、主任の一番近くで看病に当たった私にもインフルエンザは伝染ることはなく、主任不在の一週間を健康体で乗り切れたことだと思う。