鬼系上司は甘えたがり。
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そうして着いた、主任の城。
玄関のドアを開けた瞬間からポトフのいい匂いが立ち込めている部屋は、連れ込まれることにもすっかり慣れてしまったけれど、自分から入ることも同じくらい慣れてしまっていて、それがなんとも言えない“恋人らしさ”を醸し出しており、嬉しくてクスリと笑ってしまった。
それに、私が持ち込んだビタミンカラーのスリッパが当然のように玄関マットの上に揃えてある姿を見ると、たまらない幸福感に包まれる。
料理以外にも世話焼きな主任が、私が来たときのために用意してくれていたに違いないそれを履き、パタパタと軽快な足音を鳴らしながら彼の姿を求めて真っ直ぐにキッチンへ向かう。
おそらく主任はポトフ作りの真っ最中だろう。
「主任、遅くなりました」
「……お前、ただいまくらい言えよ」
案の定、キッチンで鍋と睨めっこをしていた主任は、黒地に濃いグレーのストライプが入ったシンプルなエプロンを装着した姿でくるりとこちらを振り向き、おたまの柄を肩にトントンと当てながらあからさまに面白くない顔をする。
うう、ツンデレ可愛すぎか……!