鬼系上司は甘えたがり。
案の定、私の読みはピタリと当たり、恐る恐る顔を上げた先の主任は真正のドS顔で私を見下ろし、それはそれは愉しそうに笑ったのだった。
その夜、恥も外聞もなく、主任の好きなところを延々言わされたのは言うまでもない。
でも、その甲斐あって……かどうかは定かではないけれど、翌日の日曜日、デートに出かける際の玄関先で私はとうとう見つけたのだ。
何をって、それは--。
「主任、この革靴って……?」
靴箱の中からひょっこり覗く、やけに年季の入った革靴を見つけた私は、スニーカーに足を突っ込んでいる主任を振り仰ぎ、訊ねてみた。
会社のデスクや仕事ぶりを見てきて、細かい性格なのだろうとある程度の想像はついていたし、実際につき合ってみても全くその通りだったので、履き古した靴をそのまま置いておくなんて、どうも主任らしくないと思ったのだ。
すると主任は、懐かしさの中に少しの寂しさを滲ませたような表情で革靴を眺めながら言う。
「ああ、就職祝いに両親がくれたんだ。ずいぶん履いたから修理してももうダメだろうけど、これだけはどうにも捨てられなくてな」
「……そうでしたか」
「なんで薪がしょんぼりすんだ。オラ、連れ回してやるんだから、とっとと行くぞ」