鬼系上司は甘えたがり。
 
主任の手料理なんてレアだ!と喜び勇んで答えたものの、相変わらずの主任の毒舌っぷりには下僕の私もさすがにツッコまざるを得ない。

『好き嫌いがない』って素直に言えないんだろうか、今どき貴重よ? それって。


「薪のくせに刃向かうな」


肩を竦めると、少しムッとした表情になった主任は、そう言い捨ててキッチンに向かった。

けれど、棘のある言葉とは裏腹に主任の横顔は楽しそうで、私もつられて楽しくなってくる。

ここが主任の部屋だということも忘れて本気で観たい映画を探しているあたり、本当に浮かれているなぁ……と自分でも思うけれど、花金の解放感がそうさせるのか、思いがけない主任の一面が可愛らしく思えちゃったからなのか。


「ふんふん、ふふふん」


鼻歌なんて歌ってしまう。

こんなに楽しい金曜の夜は初めてだ。
 

チチチチとガスコンロを点ける音、サクサクと野菜を切る音、フライパンで何かを炒めるジュージューという食欲がそそられる音と匂い。

そんな、心がほんわか温まる生活音を背中で聞きながら映画を選ぶ私は、お酒も入っていないのになんだか全身がふわふわと軽かった。
 
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