鬼系上司は甘えたがり。
それから約1ヶ月。
由里子が間に入って仲裁してくれようと奮闘するも、その甲斐なく、主任と私の関係はつき合う以前よりもずっと簡素なものとなっていた。
仕事の話はする。
会社でも普通に「薪」と名前も呼ばれる。
唯一私たちの交際を知っていた由里子を除く編集部の面々はたぶん、主任と私の関係が変わってしまったことには気づいていない。
それくらい自然な、でもはっきりとした拒絶。
1ヶ月経った今でも、私の心はこの状況に慣れるどころか、ますます悲鳴を上げ続けている。
そんな、とある週末。
主任と一緒に過ごさなくなったことで以前のような干物生活に戻り、これっぽっちも張りのない週末に時間の使い方も忘れてしまった頃、思いがけない人物から連絡があった。
『ペンダントトップが見つかりました。お急ぎのことと思います。今日、久しぶりに下界に降りるので、直接会ってお渡しできればと思います。渡瀬さんのご都合いかがでしょうか?』
それは、奥平さんからのメール。
私もあれから何度もホテルに伺って探させて頂いていたけれど、山の冬は長く厳しく、ホテルの敷地内は、雪が降っては解けまた凍るの繰り返しで満足に探せる状況ではなかった。