鬼系上司は甘えたがり。
恥ずかしさのあまり込み上げてくる涙を制御できないまま、これはきっと「帰れ!」と追い出されるパターンなんだろうな、と密かに思う。
主任と仕事をしてきたこの3年、こんなに気まずい思いをする日が来ようとは思ってもみなかったから、焦れば焦るほど頭が真っ白になっていって、妙案なんて浮かびもしない。
もしかして、ここは私から「帰ります」と言って腰を上げた方がいいのだろうか。
……私にされるがままに手の甲を拭かれまくっている主任は、しっかり固まってしまっている。
鬼が固まるって、よっぽどすごい。
「あの主任、私、か、帰りま--」
「ぶはっ!いや、いい、いい。さすがに驚いたけど、案外悪くないかもしれない」
「……へ?」
恐る恐る腰を上げると、しかし主任はなぜか盛大に吹き出し、さっきまで私が必死にゴシゴシしていた自分の手の甲を上機嫌で撫でた。
何が“案外悪くない”なんだろう?
かなり悪いことをしてしまったという自覚があるだけに、主任の言っている意味が分からず、中途半端な格好のまま首を傾げてしまう。
すると、腕を引いて元の位置に私を座らせた主任は、まるで内緒話でもするように声を潜め。