鬼系上司は甘えたがり。
そして奥平さんは、突然の告白に戸惑うばかりで言葉が継げなくなった私に、ふわりと笑う。
その微笑みは、とても甘美なものだった。
体の奥からじわじわと毒していくような、甘さと危険を同時に孕んだ、そんな微笑み。
まるで中毒性のあるようなそれは、危険だと分かっていながら自分ではどうにも出来ないような類のもので、目を逸らしたいのに逸らせず、私は逆に引き込まれそうになってしまう。
バクバクと嫌な音を立てて体の内側で鼓動を刻む心臓は、一刻も早くキッパリ断らなければこのまま流されてしまい兼ねないと、こうして対峙している今も警鐘を鳴らし続けている。
けれど、奥平さんの告白のあまりの正直さに少しだけ嬉しいと思った気持ちも、嘘ではない。
そこに追い討ちをかけるように彼が言う。
「……新田さん--ですよね、渡瀬さんの彼氏って。正直俺は、自分が彼より劣っているとは思えない。少なくとも、自分の都合であなたを遠ざけ、泣かせるような真似だけはしません」
「な、んで……」
なんでそんなことまで分かっているのだろう。
思わず目を瞠ってしまう。