鬼系上司は甘えたがり。
会社でも由里子以外には話していないのに、奥平さんに話したことがあるはずもない。
それにそもそも、奥平さんが担当に代わったとき、主任は例の電話が入ってホテルへは一緒に来られなかったのだ、それなのに、他に主任と奥平さんに接点なんてあるのだろうか……。
「ふふ、渡瀬さんが担当になる前、前任の池畑と一緒に新田さんと何度かお会いしています。彼は本当に有能ですね。仕事への貪欲さに俺もずいぶん刺激を受けました。そんな中、世間話の中で彼も少し自分のプライベートを話したことがあるんですよ。ずっと狙っている獲物がいるって。そのときは、有能な人でも恋に悩むこともあるんだなと軽く思っていましたけど」
けれど、その疑問は早々に解決する。
そういうことかと納得すると同時に、私の預かり知らないところで話されていた主任の気持ちに無性に嬉しさがこみ上げてくる。
思わず締まりなく緩みそうになる口元を隠すように俯くと、自嘲気味に笑った奥平さんは、観念するようにポツリポツリと言葉を紡ぐ。