鬼系上司は甘えたがり。
「池畑から担当を引き継いで初めて渡瀬さんにお会いしたとき、渡瀬さん、新田さんのことをお話ししていましたよね。その顔を見て、以前新田さんが仰っていた“狙っている獲物”があなたなんだってピンと来ました。ペンダントトップが行方不明になったのは予想外でしたけど、それがキッカケでしょうかね。……恥ずかしながら、俺もあなたにあそこまで必死に想われてみたいなんていう欲が生まれてしまいました」
「奥平さん……」
「しょうもないですね、俺。困らせるだけだと分かっていても、どうにもならなかった。今だって、あなたが弱っているところにつけ込むことで“あわよくば”なんて下心で自分のものにしたいとか、普通に思っちゃってますから」
そう言うと、奥平さんは自分の前髪をくしゃりと掴み、俯いて長く息を吐き出した。
困らせるだけだと分かっていても、どうにもならない気持ち、チャンスがあれば奪ってしまいたい、自分だけを必死に想ってほしい。
そう正直すぎるくらいに心の内を吐露した奥平さんは、もしかしたら、こうして思いを告げる前からそんな自分を責めていたのだろうか。
何か掛けられる言葉があればいい。
だけど、もしあったとしても、私にそれを言う資格なんて存在するのだろうか……。