鬼系上司は甘えたがり。
 
「手の甲を舐めるって、お前ドMな。接待とか飲み会で酒の肴にされたくなかったら、黙って俺の言うことを聞いた方がいいと思うけど?」

「……なっ!」


それを引き合いに出すなんてひどいよ主任!

でも酒の肴は困る。笑い物にはなりたくない。

うう……。

私はこのまま、勝ち誇ったようにドSな顔でほくそ笑むこの鬼に手も足も出ないのだろうか、何てこったよ!やっぱり今日は不運だ!

悔しさから唇を噛みしめる。

ちょっと退屈だけど平穏な私の生活が、今まさに180度様変わりさせられようとしているこんなときに、一つも言葉が出てこないなんて。

私だって大学出てるのに!三流だから!?


「ま、映画館で俺に遭遇したのがお前の運の尽きだったと思って諦めるんだな。残念ながら薪に拒否権はない。なんせ初めから下僕なんだし」

「……」

「喜べ。思いっきり甘えてやる」


24年間生きてきて、ぐうの音も出ない経験をしたのは、このときが初めてだった。

今までの平穏な生活がガラガラと崩れ去っていく音が頭の中から聞こえつつも、それを阻止する力もない私に成す術なんてあるはずもない。
 
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