鬼系上司は甘えたがり。
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そんなことがあってから数日後。
今日も主任の足下の例の革靴に切なくなるような安心感を覚えつつ、午後からの外出に向けてデスクワークをせっせと片付けていた時のこと。
「ごめん渡瀬さん。この書類なんだけど、新田主任が忘れていったみたいなんだよ。悪いけど届けてもらえない? 俺、これからお客様と打ち合わせで会社から出られないんだよ」
午前中10時を過ぎた辺りで声を掛けられた。
顔の前で手を合わせ、申し訳なさそうにこちらを見下ろす先輩社員に笑顔を作ると、彼の脇に挟まれた大判の茶封筒を見やり、私は言う。
「いいですよ。届けます」
「ごめんね。主任、最近出掛けるときはずっとこの封筒を持って行ってるみたいだから、たぶん忘れ物だと思うんだよ。たまたまデスクの近くを通ったら置いてあったもんだから、もしかしたらと思ってね。違ってたら何か奢るから」
「いえ、お構いなく」
私の手に茶封筒を預ける先輩にゆるゆると首を振りながら、そうか最近の主任はこれを持って出かけることが多いんだな、などとまるで他人事のように思ってしまい、チクリと胸が痛む。