鬼系上司は甘えたがり。
 
近頃は、コンビを組んで仕事をしているとはいっても徐々に私一人で仕事をこなせるようになってきていて、別々に行動することも増えた。

報告だけはマメにしているけれど、それだって本当に仕事の進捗状況を把握してもらうためだけのもので、よっぽどのことでない限り口頭や書類に纏めて提出するという体制だ。


けれどそれは、信頼して任せてもらっているというよりは、私にはやっぱり必要以上に距離が近くならないようにするためのことに思えてならなくて、心境は複雑だったりもする。

仕事は楽しい。でも切ない。

主任が今抱えている仕事のことも分からないなんてと思うと、どうにもやるせない気持ちになり、思わず封筒を持つ手に力が入ってしまう。

……でも、主任の元に帰り着く突破口は未だに見つけられないままの現状では、それも致し方ないことなのかもしれないけれど。

しかし、そんな私に気づくことなく、打ち合わせ時間が迫っているらしい先輩社員は腕時計に目を落としながらいくぶん急いだ口調で言う。


「じゃあまあ、そういうことで。今さっき出掛けたばっかりみたいだから、追いかけたらすぐ捕まえられると思うよ。よろしくね渡瀬さん」

「はい、了解です」
 
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