鬼系上司は甘えたがり。
 
そうして、先輩は小走りでデスクの島をスイスイと渡ると急いだ様子で編集部を出て行った。

先輩の姿が見えなくなると、私は一つ、ふう、と小さく息をついて改めて封筒を見つめた。

それからデスクの引き出しからバッグを取り出してそれを入れると、椅子に掛けていたコートとマフラーを腕に引っかけ、主任の行き先を把握するためホワイトボードに目を走らせる。

けれど主任の名前の欄には【打ち合わせ】としか書かれておらず、普段ならきちんと行き先を書くのになと、ひっそりと眉根を寄せた。


「最近の主任、ただ【打ち合わせ】って書いて出て行くの、けっこう増えた気がするよね。どこか大物の契約先でも見つかったから、本決まりになるまでは社内秘で進めてるのかも」


すると、その様子を見ていたらしい由里子が、わざわざ席を立って私の耳元に唇を寄せ、そんなヒソヒソ話を持ち掛けてきた。

どこか大物の契約先、か。

ハイスペックな主任ならそれも往々にしてあり得るなとすぐに思えてしまうのは、やはり彼がこの編集部の正真正銘のエースだからだろう。

でも、どうしてだろう。
 
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