鬼系上司は甘えたがり。
由里子の言葉とは裏腹に、何の脈絡もないはずのにクリスマスの夜に粗相をしてしまったあの男性のことが急に思い出されて、私の胸に何とも言えないゾワゾワとした胸騒ぎが起こる。
主任が脱ぎ捨てた革靴がベンチに背中合わせに座っていた彼の肩に当たってしまったときの、私の顔を見たときのあの表情……。
確かに彼は私に見覚えがあるようだった。
だけど私は、彼に見覚えはない。
--でも、もしもあの彼が主任にも見覚えがある人だったとしたら? もしも主任と私の両方に面識がある人物だったとしたら?
そこまで考えて、ある仮説が浮かぶ。
「……薪ちゃん?」
「ごめん由里子、急ぎで調べてほしいことがあるの。私、主任のところに行かなきゃ……」
ホワイトボードを見つめたまま動かない私を心配して顔を覗き込んできた由里子の肩をガシリと掴み、押し殺した声でそう口にする。
最初は私の切羽詰まった様子に目を見開いて驚いていた由里子だったけれど、やはり彼女も主任の予定欄に度々【打ち合わせ】としか書かれないことをどこか不思議に思っていたところがあるようで、神妙な面持ちでコクリと頷くと、「何を調べたらいい?」と急なことにも関わらず快く私の頼みを承諾してくれた。