鬼系上司は甘えたがり。
 
「もしもし、奥平さん。お仕事中に申し訳ありません、今電話しても大丈夫ですか?」

『あれ、渡瀬さん? 珍しいですね、渡瀬さんの方から電話をくれるなんて。ホワイトデーのお返しに何が欲しいか決まったんで--』

「……ッ。いえ。何も聞かず、どうか私の頼みを聞いては頂けないでしょうか。もしかしたら、新田が危ないかもしれないんですっ」

『……』


急き込んで言うと、奥平さんが押し黙る。

無理もない、珍しく私の方から掛けた電話がライバルである主任絡みのことに加え、切羽詰まった声で「危ないかもしれない」なんて聞かされたら咄嗟の言葉なんて浮かぶはずもない。

だけど、由里子が言っていた“社内秘に”という言葉が間違っていなければ、主任の所在を掴むには必然的に社外の人間の力が必要で、それを頼める人は私には奥平さんしかいないのだ。


「無理を承知でお願いしています。でも、どうしても新田を助けたいんです。私分かったんです。新田は自分の都合で私を遠ざけたわけじゃなかった。だから……どうかお願いします」


仮にも私に好意を寄せてくれている奥平さんに頼めることではないのは分かっている。でも、どうか私の気持ちに応えてほしい。

その一心で必死に言葉を紡ぐ。
 
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