鬼系上司は甘えたがり。
奥平さんの答えは、イエスかノーか。
--と、それから数秒か、十数秒か、お互いに無言が続いたあと、電話の向こうの奥平さんが観念したように小さく「はぁ」と息をついた。
『……それが渡瀬さんの答えなんですね?』
「はい」
迷いなく返事をすれば、奥平さんはいつものように柔和に「ふふ」と笑って言う。
『渡瀬さん自ら俺にライバルを助けて欲しいと頼むなんて、あなたも大概悪い人だ。これじゃあ、噛ませ犬にもなれないじゃないですか』
「じゃ、じゃあ……?」
『いいですよ、他でもない渡瀬さんの頼みとあらば、敵に塩を送ることなんて厭わない。それでこそ俺が本気で自分のものにしたいと思った人です。俺は何をしたらいいですか?』
「ありがとうございます……っ!」
そうして私はなんとか奥平さんに力添え頂くことに成功し、彼から折り返しの電話が掛かってくるのを待ってから主任の元へと駆け出した。
私の愛しのドSツンデレ彼氏様を迎えに。
息も絶え絶えになりながら走る私の上からは、いつの間にか粉雪がちらちらと舞い降りていた。
*