鬼系上司は甘えたがり。
それから数十分。
私は、市街地と郊外とのちょうど境目に位置する、とある小さな雑居ビルの前に立っていた。
奥平さんが上手く聞き出してくれた情報によると、主任は今、このビルの中にいるらしい。
三階建てのビルは外壁がレンガ調で、一階二階は空き店舗、通りに面した三階の窓一面に『にこにこローン』なんていう怪しすぎるキャッシングサービスの名前が書かれているけれど、果たしてこの事務所は営業しているのだろうか。
築何十年と経っていそうなこのビルは市街地で目にするような比較的新しいビルと違って年季があり、どこかすすけた印象がある。
「本当にここにいるの……?」
あまりに人の気配がしないビルを見上げる私の胸に底知れない不安が沸き起こり、外階段を視界に入れるも、なかなか足が進まない。
人の出入りがない建物は、一気に古びる。
空き家、閉店して久しい個人商店、潰れたコンビニ……何年も次の持ち主が現れない建物は独特の寂れた雰囲気が建物全体から漂っていて、よっぽどではない限り進んで近づきたいものでもないのが人間の心理なんじゃないかと思う。