鬼系上司は甘えたがり。
だから、私が主任を守らないと。
今まで守ってもらった分、今度は私が。
「よし……!」
最後にグッと唇を引き結んで気合いを入れ直すと、私は主任が忘れていった封筒が入ったバッグを肩に掛け直し、粉雪が舞い降りる中、三階を目指して外階段を慎重に上っていった。
渡瀬薪、25歳、一世一代の大説得、始めます。
そうして、さながら探偵か刑事のようにひっそりと潜入を果たしたビルの中は、外の気温とほとんど変わらないほどに冷え込んでいた。
最近よく使われているのか、外階段を上り切った先にあったビルの中へと続くドアはノブも特に錆び付いているということもなく、すんなりと回ってくれ、よく見ると廊下の真ん中に点々と靴に付いた雪が解けた跡が見て取れる。
やっぱりここにいるんだ……。
ゴクリ、緊張から喉が大きく鳴る。
まず三階からと思ったのは、単なる勘だった。
『にこにこローン』なんていう怪しい事務所が入っていた場所だもの、間違いなく裏社会に通じる職業の人たちが起こした事務所だろうし、廃業後の片付け作業なんて、あってないようなもの--つまり、事務机やソファーなんかがそのままの形で置いてあるだろうと思った。