鬼系上司は甘えたがり。
そうなれば、潜伏するには打ってつけだ。
単なる勘だったのだけれど、こうも見事に当たってしまったとなれば、刑事ドラマからの受け売りも案外侮れないかもしれない。
「話し声が聞こえる……?」
それほど大きいビルではないので、少し廊下を進んだだけで目的の部屋はすぐに見つかった。
『にこにこローン』と書かれた磨り硝子のドアに手を付き、中の様子にそっと聞き耳をそばだてると、何やらモゴモゴと声のようなものが聞こえて、私の鼓動は一気に早まっていく。
もっと聞こえるようにと、ぐぐっとドアに耳を押しつけて声を拾おうとすれば、時々漏れ聞こえるのは、若い男性と思しき声と、やはり……。
「責任は--俺に出来ることは--気に合う仕事が見つかるまで俺がちゃんと支援する--」
主任の声だった。
詳しい話の内容までは分からないものの、どうやら相手は主任個人に対して仕事の紹介を打診しているようで、主任は今までも彼の要求に応えていたと思われるような話のニュアンスだ。
すると。
「あんたのせいで俺はっ!どこに行っても人が恐くて!そんなんで長続きするわけ……っ!!」
相手の声に明らかな怒気が帯びた。