鬼系上司は甘えたがり。
 
そこは嘘でも“ご馳走さま”と言って欲しかったけれど、フッと口元を緩め、もうついて行けないといった感じで苦笑いを零す多賀野くんの表情はどこか吹っ切れた雰囲気が漂っていて、この話が収束に向かっていることが窺える。

多賀野くんは元々、心根の優しい人だ。

その分、人一倍傷つきやすくて、気にしてしまうタチで、主任との相性が悪かっただけ。

ただそれだけのこと。


「……もう少し頑張って仕事を続けていたら、仕事の楽しさも、同期の大切さも、主任の分かりにくいところも、もっと分かったのかな」
 
「多賀野くん……」


自分の足下に目を落とし、ぽつりと呟いた多賀野くんの言葉に、胸が切なく締め付けられる。

辞めても後悔の残らない仕事だって、この広い世の中にはきっとあるだろう、だけど多賀野くんはずっと後悔していたのだろうと思う。

主任を責めたい気持ちがある一方で、ずっと後悔していたからこそ、埋まらない気持ちの歪みにもがき苦しみ、主任や私と思わぬ再会をしたことでその歪みがさらに大きくなって……だからこんな無茶なことを仕掛けたのかもしれない。

なんて思っていると。
 
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