鬼系上司は甘えたがり。
あっという間に形勢を逆転されてしまった主任は、耳まで真っ赤にしながら唇を引き結ぶだけ。
うわ、あの鬼が言い負かされてるよ……。
“結婚”をほのめかす単語を矢継ぎ早に言われて照れているのか、返す言葉もなくて悔しくて顔を赤くしているのか、一体どっちだろう。
……まあ、どちらにしても、なんかすんごいものを見ちゃった気分なのは確かだけども。
「渡瀬さんはどっちがいいですか?」
「へっ!?」
すると唐突に奥平さんに話の矛先を向けられる。
けれど答える準備なんて少しもしていなかった私は、後に続く言葉もなく、ただしどろもどろになりながら動揺しまくるだけだ。
そうすると、奥平さんは目元をふっと柔らかく細め、こんなことを言いはじめる。
「渡瀬さんが着る花嫁衣装に決まっているじゃないですか。ドレスと白無垢どっちがいいですか?って。俺はそうだなあ、しろ--」
「奥平さんの好みなんて聞いてませんし!」
しかし、奥平さんが言い切る前に主任が鬼の形相で食って掛かったので、当の私はどちらを着たいか考える時間すら無く、この二人の暖簾に腕押し、糠に釘な、なんとも不毛すぎる攻防戦にうんざりしながら溜め息を飲み下すだけ。