鬼系上司は甘えたがり。
 
コーヒーの蠱惑的な匂いが充満した部屋は朝の光で明るく照らされていて、それだけで特別な朝のような気がしてくるから不思議だ。


「おー、起きたか。昨日は悪かったな」


起きたらシャワーを浴びたのだろう、ラフな部屋着の主任にスッキリした顔でマグカップを差し出されては、「いいえ」としか言えない。

主任がもう片方の手に自分用のコーヒーを持って隣に座ったので、重みでソファーが沈む。

私はなんとなくソファーの端に寄ってしまいながら、熱々のそれにそっと口を寄せつつ、いつ「帰ります」と切り出そうかと考える。
 

昨日は結局、切り出す前に寝られたから、今回はタイミングをきちんと見計らわなければ。

けれど。


「朝メシ食ったら一回帰れ。で、着替えたら部屋の外で待ってろ。一日連れ回してやろう」

「……うぇい!?」

「昨日寝落ちした埋め合わせだ。どうせ日がな一日、干物みたいに部屋で映画でも観て過ごしてるんだろう? 今の時期、せっかく紅葉が見頃なんだ、見に行かなくてどうするよ」


主任が私的にはなんともはた迷惑な埋め合わせをしようとしてきたではないか!

うう、なんということだ、またしても切り出すタイミングを完全に奪われてしまった……。
 
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