鬼系上司は甘えたがり。
 
「すごいだろ? 建て替え工事中だったし、しばらく『iroha(いろは)』に載せられなかったからな。工事が終わったって聞いて俺も久しぶりに来たけど、相変わらずいいところだ」

「ですね」


車から降り、空を仰いでぐーっと大きく伸びをしている主任の横顔に相槌を打つ。

主任も空気が美味しいようで、気持ちよさそうな顔でそれから少し深呼吸を繰り返した。


『iroha』とは、うちの会社が作っているフリーペーパー雑誌の名前で、発行部数は月4万弱。

全国の人に見てもらえるように電子化もされていて、特に旅行についての特集は、発行地域からの人のみならず、それを見て遠くから足を運んで下さる人も最近はとても増えている。

『iroha』を見た、と言うとちょっと割り引きになったり、他とは少し違うサービスを受けられたりするので、それもまた魅力の一つだ。


「それに、そろそろ営業のかけどきかと思ってな。薪に任せようと思っているんだ」

「……うぇい!?」


しかし、サラリと言った主任の一言によって私の周りだけ空気がピリリと様変わりした。

いきなり何を言い出すのだ、この鬼は!
 
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