鬼系上司は甘えたがり。
よ!と小さく片手を上げてこちらを見ているけれど、普段会社では鬼の顔しか見たことがないために、しっかり『薪』と名前を呼ばれたのにも関わらず全く同一人物の気がしない。
ていうか、もしかして私、知ってはいけないことを知ってしまったんじゃないだろうか。
ひゃー、どどどどうしよう!?
めっちゃ怖いー!あとが怖いー!
「……、……」
目を見開き、口をあんぐりと開けたままカチコチに固まる私は、もはや映画どころではない。
泣きながら器用に私のポップコーンを頬張り続ける主任の横顔を見つめながら、それからの時間をただただ呆然として過ごしたのだった。
*
上映後、エンドロールまでしっかり堪能してから、主任はさも当たり前のように、置き物と化した私の手首を掴んで席を立たせた。
ほかの人には恋人同士に見えなくもないだろうけど、私の気分は処刑台に向かう囚人だ。
映画の後半部分を主任との遭遇ですっかり持っていかれた私とは違い、主任は最後までストーリーにどっぷり浸かっていたようだったので、目元の涙のあとはまだ新しい。
けれど反対に、主任の纏う空気が会社でのピリピリしたそれにとても近いものがあったため、彼も私と遭遇したことが想定外であり、この状況をどうにかしなければならないと思っていることは、私にも手に取るように分かった。