鬼系上司は甘えたがり。
2年半も狙われていた事実と、その間少しも気づかなかった自分のニブさに改めて驚愕だ。
「落ち着け薪ちゃん、鍋屋だよ」
「うん、和風居酒屋だからね。冬になると鍋メニューが超充実しちゃう、ただの不思議居酒屋だからね。由里子もしっかり……!」
ガクブルと震えながら、それでも真面目な顔でボケてくる由里子に至極真っ当にツッコむ。
すると由里子は「それだけしっかりツッコめれば、サバンナなんて幻覚はもう消えたね」と、普通の顔をしてコラーゲン鍋のスープを飲んだので、目の前に悠然と広がっていたサバンナの広大な大地は、そこでシュッと収束した。
もしかして、主任があれだけ渋っていた理由って、このことなんじゃないだろうか。
自分の片想いが由里子にバレていたから、私が彼女に恋人関係になった報告をすることでそれが私にもバレてしまう、という負の連鎖を阻止したいがために、頑なに『ダメだ』の一点張りを通していたのかもしれない。
あの鬼に恐れられるこの子って、一体何者?
ある意味、由里子も恐い……。
しかし、こんなのはただの序の口だった。