歪んだ愛情【更新中】


思わず鞄から煙草を取り出しそうになった。


美海は初めて会う人の前では煙草は吸わない。

様子を伺ってから吸うのが
人を観察することの好きな美海の癖と言ってもいいだろう。


煙草を出そうとした手を押さえつけ、
美海はテーブルに置いてある千歳の携帯を見た。


何度も点滅して、
目に付いてしまう。


「また携帯光ってるよ?」

「ごめん。気になる?」

「返さなくていいの?電話してきても構わないよ」


千歳は申し訳なさそうに携帯を持って店の外に出た。

テーブルに肘を付いて、
掌に頬を乗せた。

目線の先は電話をする千歳の姿。


もし彼女がいても、
自分も信吾の事を証していない。

でも、
彼女がいたらという想像をして
悲しくなるのは何故だろう。


千歳に信吾の存在を証したくない。


知られたくない。


千歳もそれは同じなのか。



お互い影を隠しているのは一緒なのか。



そんな事を頭の中で考えながら電話する千歳を見つめた。





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