オフィス・ラブ #3
「浮気とか心配してるわけじゃ、ないんでしょ?」
「それは、ない」
食後のアイスコーヒーが、疲れた胃にずしんと来る。
紅茶にしておけばよかったと後悔しながらも、冷たさを求めてそれを飲んだ。
新庄さんは、言ってしまえば無精者で。
こと恋愛においては、超のつく受け身だ。
たぶん、これまでも。
つきあおうと言われたら、うんと言って。
別れようと言われても、うんと言って。
そんな感じで来たんじゃないかって気がするのは、たぶんそんなに外れてない。
あの多忙の中、私を維持しつつ他に女をつくるには、ある程度のマメさと積極性が必要だ。
ありがたいことに、新庄さんには、それがない。
「言うようになったね」
彩が、グラスの氷をかき混ぜながら笑うのに、さすがに恥ずかしくなる。
だって、本当にそうなんだから仕方ない。
それよりは、気持ちが離れていく危機のほうが、まだ可能性があると思う。
けど、決してうぬぼれではなく、それもありえないような気がしていた。
少なくとも当分は、新庄さんは私のことを大事にしていてくれるだろう。
それは、愛される立場ならではの、確信のようなもので。
だけど、それなら。
私は、いったい何がこんなに、不安なんだろう。