浮気者上司!?に溺愛されてます
『恭介を、家に帰します』


そんなメールを紫乃さんに返した後、私は恭介から合鍵を返してもらった。


フロアの片隅の給湯室で、私はコーヒーを淹れながら。
恭介はシンクに軽く腰掛けて、膝の間でペットボトルを揺らしながら。


恭介は、ポケットから変なキーホルダーのついた鍵を取り出して、目の高さで軽く揺らすようにして眺めてから、私に突き出すように腕を伸ばした。


ん、と短く促されて、『返して』と言ったのは私なのに、躊躇して受け取れなかった自分に気づく。
それでもグッと唇を噛む私に、恭介は溜め息をついてから、私の手を握って、上向かせた手の平の上に鍵を落とした。


「紫乃が、俺と話したいって、そう言ってきた。その時間を作る為に、奏美との同棲を解消する。それだけだろ?」


言い含めるように訊ねられて、私はただ、何度も頷いた。


「じゃあ、なんでお前の方がそんな悲壮な顔してんだよ」

「私が紫乃さんの立場だったら……こうやって呼び出して、恭介と何をどう話したいかな、って思って……」

「訣別宣言だろ。まあ、『ごめん』『ありがとう』だけじゃ済まないとは思うけどな」


相変わらず、恭介は腹が立つほど楽観的だ。


「ふざけないで、ちゃんと紫乃さんの気持ちを考えてあげてよ」


思わず強い目で睨むと、恭介は肩を竦めて私をその肩越しに見下ろした。
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