~Lion Kiss~
*****

当たり前だけど、治人さんは出勤していて留守だった。

手早く化粧を済ませ、大きめのバッグに身のまわりの物を詰め込むと、私は急いで会社へと出掛けた。

「おはようございます……」

「藤吉、おはよう。風邪でもひいたの?」

隣の席の中川君が、マスク姿の私を見て心配そうに眉をひそめた。

「ん、まあそんなとこ」

「今日は定時で帰りなよ?こないだ手伝ってもらったし、今日は俺が頑張っとくからさ」

「ありがと。何種類かの買取期限の確認して、輸入貨物の納期調べたら、後は昨日の書類作成の続きなんだ。定時であがれそう」

「そう?無理すんなよ」
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