白と黒のコーヒータイム
「…名村?」

国見は名村の胸に寄りかかっていたのだ。

腕に圧迫を感じる、どうやら名村に腕を掴まれ引っ張られたようだった。

でも一体どうして。

「お前また前を見ていなかっただろ。」

「…え?」

ため息交じりに呟かれた言葉が国見のすぐ頭上から降ってくる。

見上げれば初めて見る角度の名村がいて国見は心臓を鷲掴みされたような感覚に襲われた。

何というか、近い。

「今度は階段を踏み外すつもりか?」

「あ、ご、ごめん!」

我に返った恥ずかしさから急いで体を離そうとするが途端に身体が不安定に傾き、また力強く引き戻される。

そうだった、踏み外すところだったのにも関わらず自らまた突っ込むところだ。

「だから危ないって言ってんだろ。」

返す言葉も無くただ顔を赤くする。

恥ずかしさのあまり顔を俯かせれば名村の胸越しに声が響いて伝わってきた。

「国見ってこんな鈍くさかったっけ。」

「いやいや…そんなことは無い筈なんだけど。」

そう言って今度はゆっくりと名村の胸を押し国見は体勢を起こす。

足元を見ながら安全な場所へと自分を逃がしていくのだが、言いようのない焦りに似た困惑が心臓を忙しく働かせてどうしていいのか分からない。

これは、ちょっとヤバイ。

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